
T.T I-A 002 | 遺物の声を聴く 応用考古学の庭
イサム・ノグチ作庭《天国》
2024年12月22日〜12月29日
「T.T I-A(Institute of Archaeology)」第二弾の舞台は、イサム・ノグチが丹下健三とともに作庭した石庭《天国》(1977〜78年)。髙橋大雅の蒐集した遺物、1900年代前半のヴィンテージ衣服、そして髙橋自身の作品を配し、《天国》を「応用考古学の庭」として再構成した。




石の声を聴く
ノグチは、髙橋がもっとも影響を受けた作家のひとり。髙橋自身も、和泉正敏氏のアトリエで石彫を手がけてきた人だ。「自然石と向き合っていると、石が話をはじめるのです」というノグチの言葉のとおり、石との対話は物質性だけでなく、石が生きてきた時間に耳を澄ますことでもある。遺物から先人の哲学を学び、未来の創作へつないでいく。応用考古学の核も、ここに重なる。



彫刻《時間の天衣》
石庭に置かれた《時間の天衣》は、秋篠寺の天帝釈天立像(天平〜鎌倉時代)の衣紋から生まれた。髙橋は、古今東西の彫像や絵画に表れる衣のドレープに長く惹かれつづけてきた。古代ギリシャ「巻衣」の襞は、豊かさや社会的地位を示す記号。やがて時代と地域を越え、仏像の衣紋へと連なっていく。襞は「荘厳」や「威厳」を立ち上げる、普遍的なモチーフへと育った。

出発点になったのは、髙橋が所有する奈良・秋篠寺の救脱菩薩立像の衣の残欠(天平時代)。残欠を3Dスキャンでトレースし、解釈を加えながらスケッチを起こし、石彫と銅の鋳造へと仕立てていく。襞をなぞること。それは、古代における人間の豊かさの定義そのものに触れていくことでもあった。


ヴィンテージの衣服
庭の中核をなすのは、ヴィンテージの服飾コレクション。髙橋の創作の原点となった1910〜50年代のイギリス、フランス、アメリカの衣服が、ジャンルと年代に沿って並ぶ。産業革命以降、立体的な衣服がしだいに平坦なパターンへと姿を変えていく過程が、ここから浮かびあがる。

竹窓の然美
二階では、髙橋が彫像のドレープに着目した代表作《陰翳礼讃》と、T.T内の茶室「然美」を草月流とのコラボレーションで再構成した「竹窓の然美」が公開された。
《陰翳礼讃》は、石膏に浸した帆布をキャンバスに襞のまま貼り込み、髙橋自身が原型を作りあげた作品。絵の支持体として物質性を消し去るはずのキャンバスに、襞を寄せて陰翳を立ち上げる。彫刻のドレープから出発しながら、襞そのものではなく、襞が生む陰翳のほうを定着させた。本展では、原型にもっとも近い二点を展示。


「竹窓の然美」は、草月流三代目家元・勅使河原宏が1993年のパリ大茶会で立ち上げた竹の茶空間に着想を得ている。竹を窓の意匠へ転じる下地窓は、茶室のなかに独特の陰翳を落とす。勅使河原は、雪の重みに耐える竹に生命の強さを見出し、この素材を選んだという。対する石は、長い時間の堆積であり、過去と死を象徴する物質だ。一階の石庭と二階の「竹窓の然美」が呼応することで生と死の循環が立ち上がり、過去の遺物が未来へとめぐる応用考古学の庭が、ここに完成した。