T.T Exhibition Archive I

T.T Exhibition Archive I

T.T創業者、髙橋大雅が掲げる哲学「応用考古学」。T.Tがこれまで重ねてきた展示は、その思想を空間へ拡張した実験の場であった。ここに、そのアーカイブを紹介する。

髙橋大雅 個展 | THE IN ABSENCE OF PRESENCE 不在のなかの存在

京都・建仁寺塔頭 両足院
2022年12月3日〜11日

2022年9月4日、T.Tの創設者であり現代芸術家でもあった髙橋大雅が、27歳で逝去した。衣服の構築から美術、空間、建築へと表現の領域を広げ、「過去の遺物を蘇らせて未来の考古物を発掘する」という理念のもと、自らの活動を「応用考古学」と名づけた作家。時間の経過や自然、偶然性、不完全性のなかに宿る美を探求しつづけた人だ。
本展は、髙橋が遺した哲学と美学を未来へとひらいていく継続的なプロジェクト、その幕開けとして開催された初の個展である。

会場となった両足院は、臨済宗建仁寺派の塔頭寺院。1358年に創建されたこの禅寺は、藪内流五代・竹心紹智(1678〜1745年)の作庭による池泉回遊式庭園を擁し、京都府名勝庭園にも指定されている。展示は、その庭園周辺、本尊を祀る「方丈の間」、そして北側の「大書院」という二つの空間を用いて構成された。

 

出発点となった、一片の布

すべての起点は、奈良・秋篠寺(776年建立)に安置されていた太白天像の遺品との出会いにあった。髙橋が手に入れたのは、伝・救脱菩薩立像(729〜749年)の衣の断片。かつて蒐集家の無量亭虎三郎が所有し、のちに古美術商の川瀬洋三のもとへと渡ったものだ。仏像に刻まれた布のドレープに深く魅せられた髙橋は、やがて東西の彫刻におけるドレープ表現そのものへと考察を広げていった。
「人体に被せた布地の壁がうねっている。そこにあるのは、現実と虚像、写実性と抽象性が共存する世界」。古代ギリシャの彫刻、ルネサンス期のミケランジェロ、そして日本の仏像。ファインアートという概念が生まれる以前から、時代も土地も異なる作品群が、ドレープという共通の言語をもって美を立ち上げてきた。その普遍性に、髙橋は気づいていた。

方丈の間 蒐集された衣紋と木の残片

本尊を祀る方丈の間には、髙橋自身が蒐集した秋篠寺および当麻寺(612年建立)の仏像衣紋と、木造建築の残片が、彼の遺した言葉とともに据えられた。仏像そのものではなく、そこから剥がれ落ちた衣の断片、柱の破片。時間に削られ、本来の意味を脱ぎ落としたものたちだ。それらは作品でも資料でもなく、髙橋の思考の軌跡を来場者にたどらせる手がかりとして配置された。

 

大書院 ドレープから生まれた彫刻群

北側の大書院では、古今東西の彫像や絵画に描かれた衣のドレープから着想を得た髙橋の彫刻群が公開された。古代ギリシャ彫刻、ミケランジェロ、仏像。異なる時空の作品群が共有してきたドレープという表現を、自らの手で立体へと翻訳した一連の仕事である。布の襞が描く写実と抽象のあわい、壁のようなうねりが、書院の畳の上に並んだ。

 

不在を介した、存在

仏像の衣の断片、寺の建材、ドレープの彫刻。本展に集められたのは、いずれも本体を失った、あるいは本体から切り離されたものたちだった。だからこそ、つくり手の不在をかえって強く立ち上がらせる。「価値あるものだけが、生み出す者の想いとともに、時を越え、未来へと生き続ける」。髙橋が遺した言葉そのままに、本展は不在を介して立ち現れる存在を、寺の空間そのものを用いて提示する試みとなった。

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