T.Tは、T.T WOMENを扱う新たな総合芸術空間「T.T 御所南」を2026年10月28日にオープンする。総合芸術空間「T.T 祇園」に続く、京都で2つ目の拠点である。立礼茶室「然美 御所南」も併設する。
茶の湯では、出自の異なる道具をひとつの席に取り合わせ、新しい関係を結ぶ。T.T 御所南は、その考え方を空間へと移した場である。京都御所のほど近く、約150年の時を刻んだ京町家に、衣服を起点として、建築、庭、茶、工芸、アートがひとつ屋根の下に集う。柱に残る暮らしの名残や、歳月が生んだ景色はそのままに、現代の感性を重ねていく。
その根底には、「未来は過去にある」と語った創設者・髙橋大雅の「応用考古学」がある。過去の遺物の成り立ちをひもとき、日本の美意識に照らして新たな解釈を与え、次の時代へと手渡す実践である。



《無限塔》とドレープ
門をくぐると、髙橋の彫刻作品《無限塔》が出迎える。T.T 祇園に据えられた三体一組の作品を、ステンレスで新たに制作したバリエーションである。コンスタンティン・ブランクーシとイサム・ノグチの造形を反復し、わずかな旋回を加えた螺旋は、変化を重ねて未来へと続いていく。
建築には、髙橋が《時間の天衣》や《陰翳礼讃》で探求した衣のドレープが通う。かねてよりT.Tと協働を重ねてきた作り手たちとともに、畳縁にはHOSOOの西陣織を、襖には嘉戸浩が主宰する「かみ添」の唐紙を用い、布や摺りの重なりでドレープの揺らぎと陰翳を表した。佐藤聡による宙吹きガラスの照明では、内側のドレープを透して、光が繊細な翳りを生む。


素材と技術をめぐる旅
T.T 御所南の中心には、T.T WOMENの衣服がある。蒐集した服飾資料の形を手がかりに、素材がどの土地に生まれ、いかなる手を経て一着に至るのかを辿っていく。
内モンゴル・罕山(ハンシャン)の仔山羊から、生涯に一度だけ梳き取られるベビーカシミヤのファーストカット。一頭からわずか1%しか得られず、アンデスの女性たちが一着ずつ手で編み上げるスーパーベイビーアルパカ。1300年以上続く奄美大島の泥染には、銅媒染による深い臙脂(えんじ)を加えた。岡山では60年以上前の旧式力織機で、髙橋が考案したグリーンキャストのインディゴを経糸にデニムを織る。
風土のなかで幾世代にもわたり価値を見出されてきた素材を、できるかぎり無垢なまま纏うこと。着るほどに、服は着る人の時間を映し、景色を帯びていく。T.T WOMENの衣服が纏う贅沢とは、時間の贅沢である。


デニムの間
奥には、茶室の様式に倣った小間「デニムの間」がある。T.Tのシグネチャーであり、仕事着として生まれたデニムが、呉服のようにたとう紙に包まれ、籠に収められる。着込むほどに価値を深めるという点で、髙橋はデニムと着物に同じ時間的価値を見出した。その眼差しは、流行によって衣服を短いサイクルで消費する現代への批評でもある。床の間には、藍染の和紙に雲母を摺り重ね、デニムの織り目を写した嘉戸浩の掛け軸が掛かる。


立礼茶室「然美 御所南」
髙橋が自らの作品のひとつとして構想した茶室「然美」。T.T 祇園の然美が人工の光を極限まで排した翳の空間であるのに対し、御所南では、向かいに建つ白壁の蔵からの反射光が大きな開口から差し込み、異なる陰翳を生む。中心に置かれるのは、数千年を土中で過ごし、色を深めた神代杉の一枚板である。
菓子は、京都を拠点に「御菓子丸」を主宰する杉山早陽子が手がける。《無限塔》から着想を得て四季の移ろいを表した琥珀菓子など、口に入れれば消える菓子に、時間が託される。茶器には、常滑に拠点を置くプロダクトデザイナー高橋孝治による急須を用いる。還元焼成の青みを帯びた深い色と、光を吸う土の肌は、須恵器に連なる焼き締めの古層に触れる。


四つの庭
四つの庭を手がけたのは、作庭家の重森千靑である。入口の枯山水では、《無限塔》を石組に見立て、砂紋がその螺旋に呼応する。大正期に作庭されたとみられる茶室前の庭では、植生を活かしながら築山や飛石を整えた。泥にまみれた石を洗うと、希少な鞍馬石や黒鞍馬石が姿を現したという。新しいもので古いものを塗り替えるのではなく、時間が生んだ痕跡を磨き出す。四つの庭は、応用考古学の庭でもある。

イサム・ノグチの彫刻
然美の入口には、髙橋がT.Tの思想を形成するうえで重要な参照項としたイサム・ノグチの金属彫刻作品《Circles》(1987年)を据えた。晩年に回帰したブロンズに、ノグチは経年が生むパティナと、磨くことで現れる新しい表面という、相反する時間の性質を見出した。その表層を、手漉き和紙で和らげた自然光が照らす。
母屋の2階は展示空間とし、今後は現代のアーティストの作品も紹介していく。
T.T Gosho-Minami Exhibition 01
オープンにあわせて開催する最初の展覧会では、水の循環と変化を手がかりに「原点」という概念を考察する。茶室の入口と茶室内では、和泉侃の《Research on Olfactive Display》(2025年)が、「潤い」と「乾き」を異なる匂いで表す。茶室を抜けた先では、日本初公開となるトモコ・ソヴァージュの《In Curved Water》(2010年)を展示する。氷塊から磁器へと落ちる水滴の音が、室温や水量によって移ろいながら空間に響く。

時間と関係を結ぶ
町家と庭、作品に囲まれて出会う衣服や器、茶は、身につけ、使い、味わううちに、日々の一部となる。贅沢とは、所有することではなく、時間と関係を結ぶこと。それが、T.Tの提案する豊かさである。
T.T 御所南/立礼茶室 然美 御所南
2026年10月28日(水)オープン
京都府京都市中京区富小路通二条下る俵屋町188
営業時間:12:00-19:00
T.T Gosho-Minami Exhibition 01:2026年10月28日(水)〜11月1日(日)